多事噪論

 震災後にヤフーで多事噪論http://blogs.yahoo.co.jp/sakaizen_sw42というブログを開設していましたが、しばらく投稿していない間に削除されてしまいましたので、改めてはてなで再開したいと思います。高校の公民科教員としてニュースについて思うことを、中学社会科、高等学校公民科、地理歴史科で扱う範囲内の内容で判断し、思ったこと、感じたことを綴っていきたいと思っています。

ウクライナ侵攻へのプーチンの主張と韓国併合の類似性と違い

 ウクライナ侵攻の理由について、ウクライナNATOに加盟しアメリカ軍の基地が置かれることは許されないとプーチン大統領が主張していたと伝えられている。つまり、ウクライナをロシアとアメリNATOの緩衝地帯として確保しないとロシアの安全が保障できないとの主張である。プーチン氏は今回の侵攻をナポレオンのロシア遠征ナチスドイツの独ソ戦大祖国戦争に例えていることからその危機感はわからないでもない。
 明治期の日本が朝鮮の独立を求め、朝鮮半島に進出を図ったのも、朝鮮半島がロシアの勢力圏に入ったら、日本がロシアに侵略されるという危機感からだった。日清戦争後は実際に親露派の政策を韓国がとり、その危機感は現実のものとなった。つまり、プーチン大統領ウクライナに求めていることは、明治期の日本が朝鮮半島に求めていたことと同じだと言える。

 また、プーチン大統領はロシア人とウクライナ人は同じ民族だと主張しているらしい。「ロシア人」は大ロシア人(現在のロシア人)、小ロシア人(ウクライナ人)、白ロシア人(ベラルーシ人)の3集団からなると考えているという。同じロシア人の中で多少の方言の違いがあるだけと思っていることだろう。確かに、キエフ公国を民族の原点と考えるのならば、プーチン大統領(ロシア人)がウクライナ人をそのような思うことは想像できないでもない。
 しかし。ウクライナ人はそうは思わないのではないか。ウクライナの少なくてもキエフを含む西半分は、ヤゲロー朝のリトアニアポーランド王国の版図に入っていた。ウクライナ人は自分たちはロシアの文化圏とは違う中欧の文化圏にも帰属しているのだというアイデンティティを持っていると想像するのは堅くない。
 日本と朝鮮も、日本から見た朝鮮の見方と朝鮮の自認する姿には違いがあった。江戸時代に朝鮮通信使が将軍の代替わりに送られてきたが、日本側はこれを朝貢使節だととらえていた。つまり、小中華思想に基づき、朝鮮を日本の朝貢国だと考えていたわけであるが、朝鮮としては朝貢は明や清に対してだけ行ってきたのであって、日本との関係は対等だと考えていた。
 日本が朝鮮に対して朝鮮が自認している姿と別の姿を思い描いていたように、プーチン大統領、ロシア人も、ウクライナ人をウクライナ人が自認しているアイデンティティと別のアイデンティティで捕らえているということだろう。

 このように、ロシアのウクライナ侵攻と明治期の日本が朝鮮半島に影響を及ぼし韓国を併合したことには共通点があるが、決定的な違いがある。
 それは、当時の国際社会では列強が非文明国を勢力圏とし領域化することは認められていたが、二次大戦後の国際秩序では武力で現状を変更することは認められていないということだ。
 また、日本が韓国に対して行ったことは、列強の間では少なくてもポーツマス講話条約にかかわった列強の間では容認されていたことだった。それは、ハーグの国際会議に韓国皇帝が送った密使に対する列強の態度では裏付けられる。それに対して、今回のロシアによるウクライナ侵略を承認している国はない。アメリカを始めとする西欧の主要国だけでなく、今のところ中共ですら承認していない。