愛知県知事リコール不正署名事件は直接請求制度の制度的欠陥を示したもの
愛知県知事リコール不正署名事件はでリコール団体の事務局長が逮捕された。伝えられることが本当なら、元県会議員という政治家でありながら、民主主義の根幹を揺るがす行為をしたわけであり、驚くしかない。
また個人的には、他人に自分の名前を使われて署名簿に載せられたということは、自分の名前もさまざまな署名運動の時に勝手に使われてはしないとかと思うと、気持ち悪さを感じる事件である。
地方自治は民主主義の学校という言葉があるが、直接請求制度は選挙以外にも住民が地方の政治に参加できる手段である。国政と違い、より民意が反映できる制度だと言えよう。
また、近年では、二元代表制をとっている地方自治のしくみを補うものとして機能してきたものと思う。地方自治では、首長と議会が両方とも直接住民による選挙によって選ばれるので、いったん首長と議会の対立が深まると、機能不全に陥ったり、政治の停滞がおこることになる。2010年には鹿児島県の阿久根市で市議会と対立した市長のリコールが成立し、同じ年、河村たかし市長と対立した名古屋市議会のリコールが成立した。
しかし、今回の事件は、直接請求制度が、市町村では機能しても、都道府県や政令指定都市では機能しないということを示したのではないかと思う。今回のリコール運動では100万人の署名を集めることを目指していたようだが、この数字は、福島県の有権者数よりは少ないものの、山形県の有権者数は超えている。1つの県の有権者を超えるような署名を集めることは、はたして現実的だと言えるだろうか。
大阪府で府知事と議会が都構想を巡って対立したことがあったように、都道府県単位で知事と議会の対立が高まり、膠着状態に陥って、県政が機能不全に陥ることも想定できる。そのような時に、二元代表制という地方自治制度の欠陥を直接請求制度では補うことが期待できないということを示した事件だったように思える。